チャイハネ・メニューのご紹介です。チャイハネとはトルコ語で[茶みせ、喫茶店]という意味です。トルコのイスタンブールは西と東の交わるところで、お茶であれ香辛料であれあらゆるものが取引されました。商売人たちはお茶を飲んで品物について話したり、目ぶみしたり、交渉したりしたんでしょう。なにがなんでもまずはチャイハネというわけです。それで僕はこないだうちからチャイハネ・メニューを作っていました。メニューの一例は、リンデン(北欧)、セイジ(エジプト)、ロウズレッド(パキスタン)、ロウズヒップ(チリ)、ラヴェンダー(地中海)といったところです。それでセイジについて書いていて、思い出しました。
セイジ Sage は、1966年にサイモンとガーファンクルのヒット曲 [Scraborough Fair] で僕は最初に耳にしました。なにも知らない僕はこのとき初めてセイジが香辛料だと知った次第です。
Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme
Remember me to one who lives there
For she once was a true love of mine
スカボロー市に行くのかい?
パセリ、セイジ、ロウズマリーにタイムも売ってるよ
そこの近くに住んでいる娘によろしく言っておくれ
以前その娘は僕の心からの恋人だったんだ
これは昔からあるスカボロー市を歌った唄で、元はトラディショナルです。スカボロー市はなんと1253年にイングランドで始まった歴史的な大市場ですが、もう現在は廃れてありません。この唄は若い男がかつての恋人に、縫い目のないシャツを編み、水の干えあがった井戸でそれを洗濯したら、と不可能なことを要求し、それができたらおまえを取り戻しに行く、と歌います。この唄はデュエットで歌われることが多く、今度は女性がやはり無理難題をやれと男に歌い、それができたら縫い目のないシャツを編んであげるといった内容です。こういう唄は人々に言い伝えられ歌われていくので、歌詞が時代とともに変わっていきます。昔のものにはParsley, sage, rosemary and thymeという歌詞はなく、やや時代が下ってからこういう歌詞が入ってきたようです。サイモンとガーファンクルの現代版は66年にLPとして出され、そのタイトルは [Parsley, sage, rosemary and thyme] となっていました。そしてこの曲はヒットして、68年に映画『卒業』に入れられました。きっと憶えている方もいるでしょう。
セイジ茶はもっぱらヨーロッパで飲まれていたんですが、お茶の本家の中国で17-18世紀に逆にセイジ茶が流行し、オランダとの取引で中国はオランダのセイジに対して3倍の量の高級中国茶と交換したといわれています。欲しいお茶は金に糸目をつけずに彼らは買うというわけです。中国人は徹底的にお茶に入れこむ国民で、[お茶で身上をつぶす]という諺さえあります。酒飲みには縁のないチャイハネ・メニューですが、常備してありますので、ファーラウトにいらしたときには、どうぞお試しください。
村尾陸男